|
聞一多 聞一多。[1899-1946]湖北省の出身。中国の学者・詩人。五・四運動の時は清華学校の学生で、学生運動に積極に参加した。シカゴ芸術学院に留学、コロラド大学に転じて文学を学ぶ。帰国後、諸大学の教授を歴任した。腐敗しきった軍隊の内情を聞き、積極的に政治批判し改革を要求する発言を行う。46年7月、昆明で暗殺された。朱自清・郭沫若らが編集した聞一多全集などがある。
読項羽本紀 垓下英雄仗剣泣。 垓下の英雄 剣に仗って泣く 淫淫泪湿烏江萩。 淫淫たり泪は湿める烏江の萩 早知天壌有劉邦。 早に知る天壌 劉邦有るを 寧学呉中一人敵。 寧んぞ学ばん呉中 一人の敵
春 柳 垂柳出官斜。 垂柳 官を出て斜なり 春来尽発花。 春る来りて 尽ごこく花を発す 東風自相喜。 東風 自ら相い喜こぶ 吹雪満山家。 雪を吹く満山の家
月夜遣興 二更漏尽山吐月。 二更 漏尽きて山 月を吐く 一曲玉簫人倚楼。 一曲の玉簫 人は楼に倚る 為怕海棠偸睡去。 海棠の睡を偸み去るを怕れるが為に 多心蟋蟀鳴不休。 多心なり蟋蟀 鳴いて休まず
七夕閨詞 卍字回文綉不成。 卍字の回文 綉して成らず 含愁泪滴杏腮盈。 愁を含み泪だ滴たり杏腮は盈つる 停針嘆道痴牛女。 針を停め嘆き道う痴の牛女 修到神仙也有情。 神仙に修め到りて也た情有り 牛女:牽牛星と織女星。
自言子文学書院射圃謁言子墓 北山夫子尚遺阡。 北山の夫子 尚を阡を遺わし 南国文章嘆倒瀾。 南国の文章 嘆じて瀾を倒す 棲鵠麗亀留射圃。 棲鵠 麗亀 射圃を留め 眠龍変石擁桐棺。 眠龍 変石 桐棺を擁す 千秋風氣開呉会。 千秋の風氣 呉会を開く 六芸淵源祖杏壇。 六芸の淵源 杏壇に祖じめ 一弁心香奢礼謁。 一弁の心香 礼謁に奢る 瑤塀独立久盤桓。 瑤塀 独立 久しく盤桓する
維摩寺 維摩古寺天下名。 維摩の古寺 天下の名 金粟堂前午蔭清。 金粟堂前 午蔭 清し 山禽楚雀皆梵響。 山禽 楚雀 皆な梵響 金龠石壇非世情。 金龠 石壇 世情に非らず 説法天仙思縹渺。 法を説く天仙 縹渺を思う 随縁万鬼憶崢獰。 縁に随う万鬼 崢獰を憶う 遊人不識広長舌。 遊人は識らず広長舌 小立清渓聴賛声。 小立する清渓 賛声を聴く
北郭即景 傍郭人家竹樹囲。 郭を傍す人家 竹樹囲む 驕陽卓午尽関扉。 驕陽 卓午 尽とく扉を関す 稲花香破山堤水。 稲花は香破す山堤の水 翠羽時来拍浪飛。 翠羽 時来 浪を拍いて飛ぶ
蜜月著《律詩底研究》稿脱賦感① 春綰香閨鎮彩霓。 春綰 香閨 彩霓を鎮める 東莱貸筆漫災梨。 東莱 筆を貸して漫りに梨を災う 杖揺藜火兼燃夢。 杖は藜火を揺がし兼ねて夢を燃やす 管禿龍須半掃眉。 管禿龍須 半ば眉を掃く 手假研詩方剖旧。 手に研詩を假て方さに旧を剖す 眼光燭道故疑西。 眼光 燭道 故さらに西を疑う 洛陽異代疏泉出。 洛陽 代を異にし疏泉出す 誰訂“黄初二月”疑!。誰が訂す“黄初二月”の疑!
廃旧詩六年矣。復理鉛槧、紀以絶句 六載観摩傍九夷。 六載 摩を観て九夷を傍る 吟成鴃舌総猜疑。 吟成りて鴃舌は総て猜疑 唐賢読破三千紙。 唐賢 読破す三千紙 勒馬回彊作旧詩。 勒馬 回彊 旧詩を作す
釈 疑 芸国前途正杳茫。 芸国の前途 正に杳茫たり 新陳代謝費扶将。 新陳代謝 扶将を費やす 城中載髻高一丈。 城中 髻を載せる高さ一丈 殿上垂裳有二王。 殿上 裳を垂す 二王有り 求福豈堪争棄馬。 福を求め豈に棄馬と争うに堪えんや 補牢端可救亡羊。 牢を補い端に亡羊を救う可き 神州不乏他山石。 神州 乏からず他山の石 李杜光芒万丈長。 李杜の光芒 万丈に長し
天 涯 天涯閉戸賭清貧。 天涯 戸を閉めて清貧を賭す 斗室孤灯万里身。 斗室 孤灯 万里の身 堪笑連年成底事。 笑に堪えたり連年 底事を成す 窮途舎命作詩人。 途に窮す舎命 詩人と作す
実秋飾蔡中郎演《琵琶記》戯作諌之 一代風流薄幸哉! 一代の風流 薄幸哉や! 鐘情何処不優俳? 鐘情 何処か優俳ならず? 琵琶要作誅心論。 琵琶 要して作す誅心の論 罵死当年蔡伯乎! 死を罵る当年 蔡伯乎!
◇郭沫若選集。「聞一多の学問態度につて」と題して,郭沫若は「先人の気がつかなかった斬新な解釈を細密に証明した例は,彼の原稿の中の至るところ見られ,人の目を見張らせるものがある」又「千古の文章有るも,未だ才を尽さず」いま私は一多の全遺作を読んで,彼の卓越した業績に驚嘆するあまり,やはり中国の人民の為に中国文化批判の為に,限りない心のうずきを感じざるを得ない。と述べている | |