[ 手術中 ]
弱井さんは、病院で胃の手術を受けました。麻酔から目が覚めた瞬間、頭にズキズキとすごい痛みが走ります。 「看護婦さん、頭が割れそうです」 「あらま。痛いのはお腹じゃありませんか?縫ったばかりですから」 「……そういえばお腹も痛いけど、頭の痛みの方が強烈なんです。ううう。あっ!ここ、コブができている。こんな大きなコブが」 あわてた看護婦さんは、先生を呼びに行きました。 「先生!205号室の弱井さん、頭に腫瘍のようなものができています。すぐ診てください!」 「ああ、弱井さんね。心配しなくていいよ」 「どうしてですか!あの大きなコブはいったい」 「手術中に麻酔が足りなくなったから、ああするしかなかったんだ」
[ それどころ ]
ばく蔵さんは、友人の牛左衛門さんのお見舞いに行きました。 「牛さん、どうじゃな。具合は」 「う……。ぐ……」 あちこちチューブでつながれた牛左衛門さんは、しゃべることもできません。 「かわいそうじゃのう。息子さんに何か伝えたいことがあったら、この紙に書いてくれ。わし、ちゃんと持って行くぞ」 「ぐぅっ!!!」 「どうした!牛さん!どうした!」 牛左衛門さんは急いで走り書きしたかと思うと、急にぐったりし、帰らぬ人となってしまいました。 お通夜の日、ばく蔵さんは牛左衛門さんの息子に会いました。 「あんたに伝言はないかっちゅうて聞いたら、牛さんは死ぬ1分前にこれを残した。よっぽどあんたに伝えたかったらしい」 「え……。これが僕への伝言ですか」 『酸素チューブから足をどけろ』
[ 泣く暇もない ]
「もしもし、山井です」 「ああ、山井さん、いらっしゃいましたか。よかった。こちら畑病院です。あなたに悪いお知らせと最悪のお知らせがあって、お電話しました」 「悪いお知らせと最悪のお知らせ……。じゃあまずは、悪い知らせの方から聞かせてください」 「はい。検査の結果が出たんですけど、先生は、あなたは残り1日しか生きられないと言っていました」 「えええ!な、なんてことだ!それが悪い知らせだったら、じゃあ最悪の知らせって何なんですか!」
[ それだけは ]
てれ子さんは、お腹が痛くて病院に行きました。 「お腹が痛い?では早速、調べてみましょう」 涼しげな瞳で話しかけるその医者は、若くていい男でした。てれ子さんはもうウットリ。 「先生、お願いがあるんです」 「なんでしょう?」 「……キスしてください。ほんのちょっとチュッってするだけ」 「できません!それだけはできません!」 「そんな。お願いします。キスして。1回キスするだけだから」 「できませんって!それだけはできません!」 「どうして?1回だけ、ほんのちょっとチュッてするだけですってば」 「キスだけというのはできないんです!するなら最後までしないと」
「やさしい歯医者 ]
「先生、なんですか、その機械は」 「これですか?歯を削る最新の機械です。ものすごくよく削れるんですよ」 「痛そうだな……。何分ぐらい削るんですか」 「ほんの1分ほどですみますよ」 「お金はどれぐらいかかります?」 「5000円です」 「1分で5000円!高いなぁ」 「うーん。そう言われればそうですねえ。1分5000円じゃあねえ」 歯医者は、じっくり30分間削り続けた。
[ 恋 ]
「なあ。きみは患者に恋したことがあるか」 「ああ。医者だって恋はする。たまたま相手が患者だったというだけさ」 「……そうか。そうだよな。患者に恋したっていいんだよな」 「なんだよ、もしかしてお前」 「うん……。立場上、許されない恋かと悩んだこともあったけど、お前の話を聞いて安心した。患者に恋するのはいけないことじゃない。恋はすばらしい。恋の炎は誰にも消せやしない」 「でも、お前は獣医だろ」
[ 宣告 ]
「わざわざお呼び立てして、すみませんでしたね」 「とんでもないです。先生、検査の結果がわかったんですね?」 「ええ。まあ」 「本当のことが知りたいんです! 正直に話してください」 「よろしいんですか」 「はい。覚悟はできています」 「わかりました。正直に言いましょう」 「お願いします」 「実はですね。そう長くは生きられません」 「ああああ……。どれぐらいですか。あとどれぐらい私は生きられますか」 「10……」 「じゅ、じゅう?10年ですか、10ヶ月ですか、まさか10週間なんてことないですよね?」 「……9……8……7……6……」
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