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映画「芙蓉鎮」の舞台(湖南省)

作者:藤野 彰  来源:YOMIURI   更新:2004-5-22 21:48:00  点击:  切换到繁體中文

◆文革の悲しみ映す石畳◆

 古い石畳街には、なぜか1種立ち去りがたい空気が漂う。黒光りし、角が丸みを帯びた石の1つ1つに、行き交った幾千万の人々の暮らしのにおいが染み込んでいるようで、妙に心が動くのだ。「ハスの花の咲く町」を意味する「芙蓉鎮」は、まさにそんな魅惑に満ちた山里だった。

 湖南省西部、湘西土家族苗族自治州永順県の王村鎮(人口1万5000人)。急峻(きゅうしゅん)な川岸にへばりつくように町並みが広がる。1986年に映画のロケ地になったことから、今では「芙蓉鎮」と言った方がはるかに世間の通りがいい。実際、町中には「芙蓉鎮大酒店」「芙蓉賓館」など映画名にちなんだホテルや食堂がそこかしこで目につく。

 町のシンボルは「石板街」と呼ばれる全長2・5キロの石畳街。幅3メートルから5メートルほどの細い通りで、階段が多い。通りの両側には、人口の8割を占める少数民族「土家族」の古い木造家屋が続く。それに混じって、土産物屋や川魚料理店が軒を連ね、年間十数万人が訪れる観光地らしい活気と俗気を醸し出している。

 「以前は観光客なんて来なかったし、土産物屋もなかった。それが、映画で有名になってから、どっと外から人が訪れるようになってね。おかげで私ら住民の収入は増えて生活がずいぶん良くなったよ」。築100年になるという民家に住む土家族の老婦人、田子梅さん(72)は、15年間の急激な変化をこう語る。

 石板街の1番奥まったあたりに、目当ての家があった。映画のヒロイン、胡玉音(劉暁慶)の「米豆腐」店だ。米豆腐は石灰水につけた米を石うすでひいた後、煮詰めて豆腐のように固めたもので、さいの目に切り、つゆと薬味をかけて食べる。

 胡玉音は汗水流してこの小商いに励み、店を新築するまでになったことから、「新富農」と批判され、1960年代の「四清」(政治、経済、組織、思想の4つを清める)運動や文化大革命の中で、理不尽な階級闘争の犠牲者となる。しかし、「右派」として同様に虐げられた2番目の夫、秦書田(姜文)に「家畜のように生き抜け!」としったされ、長い不遇の日々を耐えた。

 築70年の家の構えはロケ当時のままだ。「解放されても共産党を忘れない」「幸福はすべて毛主席が頼り」との対句を書いた紙が、映画と同じ形で窓の外に張ってある。この家ではロケ以降、「正宗(正統)米豆腐」の看板を掲げて商売を続けている。女主人の田水英さん(78)は「映画撮影の時に使った米豆腐は私の手作り。その後、旅行者がいっぱい来て、多い時には1日に数百杯も売れた」と自慢する。

 傅金生・王村鎮文化事務所長(55)によると、文革中はこんなへき地でも元地主に対するつるし上げ大会が開かれたりした。現実の「芙蓉鎮」も、映画の物語ほどではないにしろ、それなりの悲痛な歴史を秘めているということだろう。

 夜、黒いいらかの波の上にオレンジ色の3日月がかかり、土産物屋の明かりが消えた石板街は静寂な闇(やみ)に包まれた。時折、住人の乾いた足音だけがコツコツと石畳に響く。「芙蓉鎮」はしばし、観光地の化粧を落とし、本来の顔を取り戻したかのようだった。

 [芙蓉鎮]

 中国映画界の重鎮、謝晋監督の代表作(1987年)。文化大革命の悲劇と愛憎渦巻く人間模様を叙情的に描き、国内外で大きな反響を呼んだ。カルロビバリ国際映画祭グランプリを始め、多くの賞を獲得。原作は湖南省出身の作家、古華の同名の長編小説で、82年に第1回茅盾文学賞を受賞した。


 

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