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鲁迅的《阿Q正传》日文版阅读

作者:未知 文章来源:东方之舟 点击数 更新时间:2007-12-12 17:50:46 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语



        第三章 続優勝記略

 それはそうと、阿Qはいつも勝っていたが、名前が売れ出したのは、趙太爺の御ちょうちゃくを受けてからのことだ。
 彼は二百文の酒手さかてを村役人に渡してしまうと、ぷんぷん腹を立てて寝転んだ。あとで思いついた。
「今の世界は話にならん。倅が親爺を打つ……」
 そこでふと趙太爺の威風を想い出し、それが現在自分の倅だと思うと我れながら嬉しくなった。彼が急に起き上って「若寡婦ごけの墓参り」という歌をうたいながら酒屋へ行った。この時こそ彼は趙太爺よりも一段うわ手の人物に成り済ましていたのだ。
 変槓へんてこなこったがそれからというものは、果してみんながことほか彼を尊敬するようになった。これは阿Qとしては自分が趙太爺の父親になりすましているのだから当然のことであるが、本当のところはそうでなかった。未荘の仕来しきたりでは、阿七あしち阿八はちを打つような事があっても、あるいは李四りし張三ちょうさんを打っても、そんなことは元より問題にならない。ぜひともある名の知れた人、たとえば趙太爺のような人と交渉があってこそ、初めて彼等の口にに掛るのだ。一遍口の端に掛れば、打っても評判になるし、打たれてもそのお蔭様で評判になるのだ。阿Qの思い違いなどもちろんどうでもいいのだ。そのわけは? つまり趙太爺に間違いのあるはずはなく、阿Qに間違いがあるのに、なぜみんなは殊の外彼を尊敬するようになったか? これは箆棒べらぼうな話だが、よく考えてみると、阿Qは趙太爺の本家だと言って打たれたのだから、ひょっとしてそれが本当だったら、彼を尊敬するのは至極穏当な話で、全くそれに越したことはない。でなければまたのような意味があるかもしれない。聖廟せいびょうの中のお供物のように、阿Qは豬羊ちょようと同様の畜生であるが、いったん聖人のお手がつくと、学者先生、なかなかそれを粗末にしない。
 阿Qはそれからというものはずいぶん長いこと偉張いばっていた。
 ある年の春であった。彼はほろ酔い機嫌で町なかを歩いていると、垣根の下の日当りに王※ワンウー[#「髟/胡」、133-4]がもろ肌ぬいでしらみを取っているのを見た。たちまち感じて彼も身体がむずがゆくなった。この王※ひげ[#「髟/胡」、133-5]禿瘡はげがさでもある上に、※[#「髟/胡」、133-6]をじじむさく伸ばしていた。阿Qは禿瘡はげがさの一点は度外に置いているが、とにかく彼を非常に馬鹿にしていた。阿Qのかんがえでは、ほかに格別変ったところもないが、そのあごに絡まるひげ[#「髟/胡」、133-7]は実にすこぶる珍妙なもので見られたざまじゃないと思った。そこで彼はそばへ行って並んで坐った。これがもしほかの人なら阿Qはもちろん滅多に坐るはずはないが、王※[#「髟/胡」、133-9]の前では何の遠慮が要るものか、正直のところ阿Qが坐ったのは、つまり彼を持上げ奉ったのだ。
 阿Qは破れあわせを脱ぎおろして一度引ッくらかえして調べてみた。洗ったばかりなんだがやはりぞんざいなのかもしれない。長いことかかって三つ四つとらまえた。彼は王※[#「髟/胡」、133-12]を見ると、一つまた一つ、二つ三つと口の中にほうり込んでピチピチパチパチと噛み潰した。
 阿Qは最初失望してあとでは不平を起した。王※[#「髟/胡」、133-14]なんて取るに足らねえ奴でも、あんなにどっさり持っていやがる。乃公を見ろ、あるかねえか解りゃしねえ。こりゃどうもおおいに面目のねえこった。彼はぜひとも大きな奴をひねり出そうと思ってあちこち捜した。しばらく経ってやっと一つとらまえたのは中くらいの奴で、彼は恨めしそうに厚い脣の中に押込みヤケに噛み潰すと、パチリと音がしたが王※[#「髟/胡」、134-4]ひびきには及ばなかった。
 彼は禿瘡の一つ一つを皆赤くして著物を地上に突放し、ペッと唾を吐いた。
「この毛虫め」
「やい、かさッかき。てめえは誰の悪口を言うのだ」王※[#「髟/胡」、134-7]は眼を挙げてさげすみながら言った。
 阿Qは近頃割合に人の尊敬を受け、自分もいささか高慢稚気こうまんちきになっているが、いつもやり合う人達の面を見ると、やはり心がおくれてしまう。ところが今度に限って非常ないきおいだ。何だ、こんなひげ[#「髟/胡」、134-9]だらけの代物が生意気やがるとばかりで
「誰のこったか、おらあ知らねえ」阿Qは立ち上って、両手を腰の間に支えた。
「この野郎、骨が痒くなったな」王※[#「髟/胡」、134-12]も立ち上がって著物を著た。
 相手が逃げ出すかと思ったら、掴みかかって来たので、阿Qは拳骨を固めて一突きれた。その拳骨がまだ向うの身体からだに届かぬうちに、腕を抑えられ、阿Qはよろよろと腰を浮かした。※(「てへん+丑」、第4水準2-12-93)じつけられた辮子はまがきの方へと引張られて行って、いつもの通りそこで鉢合せが始まるのだ。
「君子は口を動かして手を動かさず」と阿Qは首を歪めながら言った。
 王※ひげ[#「髟/胡」、135-3]は君子でないと見え、遠慮会釈もなく彼の頭を五つほど壁にぶっつけて力任せに突放つっぱなすと、阿Qはふらふらと六尺余り遠ざかった。そこで※[#「髟/胡」、135-4]おおいに満足して立去った。
 阿Qの記憶ではおおかたこれは生れて初めての屈辱といってもいい、王※ひげ[#「髟/胡」、135-5]あごに絡まる※[#「髟/胡」、135-5]の欠点で前から阿Qに侮られていたが、阿Qを侮ったことは無かった。むろん手出しなど出来るはずの者ではなかったが、ところが現在遂に手出しをしたから妙だ。まさか世間の噂のように皇帝が登用とうよう試験をやめて秀才も挙人きょじんも不用になり、それで趙家の威風が減じ、それで彼等も阿Qに対して見下すようになったのか。そんなことはありそうにも思われない。
 阿Qは拠所よんどころなくたたずんだ。
 遠くの方から歩いて来た一人は彼の真正面に向っていた。これも阿Qの大嫌いの一人で、すなわち錢太爺の総領息子だ。彼は以前城内の耶蘇やそ学校に通学していたが、なぜかしらんまた日本へ行った。半年あとで彼がうちに帰って来た時には膝が真直ぐになり、頭の上の辮子が無くなっていた。彼の母親は大泣きに泣いて十幾幕も愁歎場しゅうたんばを見せた。彼の祖母は三度井戸に飛び込んで三度引上げらた。あとで彼の母親は到処いたるところで説明した。
「あの辮子は悪い人から酒に盛りつぶされてり取られたんです。本来あれがあればこそ大官たいかんになれるんですが、今となっては仕方がありません。長く伸びるのを待つばかりです」
 さはいえ阿Qは承知せず、一途に彼を「偽毛唐けとう」「外国人の犬」と思い込み、彼を見るたんびにはらの中でののしにくんだ。
 阿Qが最も忌み嫌ったのは、彼の一本のまがい辮子だ。まがい物と来てはそれこそ人間の資格がない。彼の祖母が四度よど目の投身をしなかったのは善良の女でないと阿Qは思った。
 その「偽毛唐」が今近づいて来た。「禿げ、……」阿Qは今まで肚の中で罵るだけで口へ出して言ったことはなかったが、今度は正義のいきどおりでもあるし、復讎の観念もあったかた、思わず知らず出てしまった。
 ところがこの禿の奴、一本のニス塗りのステッキを持っていて――それこそ阿Qに言わせると葬式の泣きづえだ――大跨おおまたに歩いて来た。この一刹那せつなに阿Qは打たれるような気がして、筋骨を引締ひきしめ肩をそびやかして待っていると果して
 ピシャリ。
 確かに自分の頭に違いない。
「あいつのことを言ったんです」と阿Qは、そばに遊んでいる一人の子供を指さした。
 ピシャリ、ピシャリ。
 阿Qの記憶ではおおかたこれが今まであった第二の屈辱といってもいい。幸いピシャリ、ピシャリのひびきのあとは、彼に関する一事件が完了したように、かえって非常に気楽になった。それにまた「すぐ忘れてしまう」という先祖伝来の宝物が利き目をあらわし、ぶらぶら歩いて酒屋の門口かどぐちまで来た時にはもうすこぶる元気なものであった。
 折柄おりから向うから来たのは、靜修庵せいしゅうあんの若い尼であった。阿Qはふだんでも彼女を見るときっと悪態をくのだ。ましてや屈辱のあとだったから、いつものことを想い出すと共に敵愾心てきがいしん喚起よびおこした。
「きょうはなぜこんなに運が悪いかと思ったら、さてこそてめえを見たからだ」と彼は独りでそう極めて、わざと彼女にきこえるように大唾を吐いた。
「ペッ、プッ」
 若い尼は皆目かいもく眼も呉れず頭をさげてひたすら歩いた。すれちがいに阿Qは突然手を伸ばして彼女の剃り立ての頭を撫でた。
「から坊主! 早く帰れ。和尚が待っているぞ」
「お前は何だって手出しをするの」
 尼は顔じゅう真赤にして早足で歩き出した。
 酒屋の中の人は大笑いした。己れの手柄を認めた阿Qはますますいい気になってハシャギ出した。
「和尚はやるかもしれねえが、おらあやらねえ」彼は、彼女のほっぺたをつまんだ。
 酒屋の中の人はまた大笑いした。阿Qはいっそう得意になり、見物人を満足させるために力任せに一捻りして彼女を突放した。
 彼はこの一戦で王※[#「髟/胡」、138-9]のことも偽毛唐のことも皆忘れてしまって、きょうの一切の不運が報いられたように見えた。不思議なことにはピシャリ、ピシャリのあの時よりも全身が軽く爽やかになって、ふらふらと今にも飛び出しそうに見えた。
「阿Qのばち当りめ。お前の世継ぎはえてしまうぞ」遠くの方で尼の泣声がきこえた。
「ハハハ」阿Qは十分得意になった。
「ハハハ」酒屋の中の人も九分くぶ通り得意になって笑った。



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