第五章 生計問題
阿Qはお礼を済ましてもとのお
彼はそれからまたいつものように街に出て遊んだ。裸者の身を切るようなつらさはないが、だんだん世の中が変に感じて来た。何か知らんが未荘の女はその日から彼を気味悪がった。彼等は阿Qを見ると皆門の中へ逃げ込んだ。極端なことには五十に近い鄒七嫂まで人のあとに
阿Qはこらえ切れなくなってお
「無いよ無いよ。向うへ行ってくれ」と手を振った。
阿Qはいよいよ不思議に感じた。
この辺の
「鉄の鞭で手前を引ッぱたくぞ」
幾日かのあとで、彼は遂に
「畜生!」阿Qは眼に
「俺は虫ケラだよ。いいじゃねぇか……」と小Dは言った。
したでに出られて阿Qはかえって腹を立てた。彼の手には鉄の鞭が無かった。そこでただ殴るより仕様がなかった。彼は手を伸して小Dの辮子を引掴むと、小Dは片ッぽの手で自分の
以前の阿Qの
「いいよ。いいよ」見ていた人達はおおかた仲裁する積りで言ったのであろう。
「よし、よし」見ている人達は、仲裁するのか、ほめるのか、それとも
それはそうと二人は人のことなど耳にも入らなかった。阿Qが三歩進むと小Dは三歩
「覚えていろ、馬鹿野郎」阿Qは言った。
「馬鹿野郎、覚えていろ」小Dもまた振向いて言った。
この
ある日非常に暖かで風がそよそよと吹いてだいぶ夏らしくなって来たが、阿Qはかえって寒さを感じた。しかしこれにはいろいろのわけがある。第一腹が
彼は往来を歩きながら「食を求め」なければならない。見馴れた酒屋を見て、見馴れた饅頭を見て、ずんずん通り越した。立ちどまりもしなければ欲しいとも思わなかった。彼の求むるものはこの様なものではなかった。彼の求むるものは何だろう。彼自身も知らなかった。
未荘はもとより大きな村でもないから、まもなく
庵のまわりは水田であった。
阿Qはしばらくためらっていたが、あたりを見ると誰も見えない。そこで低い垣を這い上って
阿Qは試験に落第した文童のような謂れなき屈辱を感じて、ぶらぶら園門の
「おみどふ(阿弥陀仏)、お前はなんだってここへ入って来たの、大根を盗んだね……まあ呆れた。罪作りの男だね。おみどふ……」
「俺はいつお前の大根を盗んだえ」阿Qは歩きながら言った。
「それ、それ、それで盗まないというのかえ」と尼は阿Qの懐ろをさした。
「これはお前の物かえ。大根に返辞をさせることが出来るかえ。お前……」
阿Qは言いも
尼が狗をけしかけやせぬかと思ったから、阿Qは大根を拾う
大根を三本食ってしまうと彼は