您现在的位置: 贯通日本 >> 文学 >> 作品鉴赏 >> 正文

日文小说连载之十二国记

作者:星矢  来源:贯通论坛   更新:2005-5-4 5:35:00  点击:  切换到繁體中文

 

 

 白い枝の下に身を伏せ、|湿《しめ》った|苔《こけ》が肌をくすぐるのを感じながら、うっとりと|汕子《さんし》は枝の果実に見入っていた。
 |泰麒《たいき》の入った実は|十月《とつき》で熟す。
 十月のあとには、あの|泰果《たいか》から汕子の主である|麒麟《きりん》が|孵《かえ》るのだ。熟した実をもぐその瞬間を思うと、汕子の|身体《からだ》は涙の温度をしたものでいっぱいになる。
 |嬉《うれ》しく、|誇《ほこ》らしく、あふれるような思いで|光沢《こうたく》のある金の実を見上げていたときに、突然それは襲ってきた。
 汕子には最初、なにが起こったのかわからなかった。
 大気がねじれる。さかまいて|壊《こわ》れる。幕を引いたように赤気が空で踊り始めた。身震いするほどの恐怖を感じて、ようやく「|蝕《しょく》」という言葉を脳裏に探し当てた。
 とっさに立ち上がった汕子の足を突風がすくう。風にはけっしてそよがぬはずの白い枝が、音をたてて揺れた。
 悲鳴を上げて汕子は枝にすがった。枝をつかみ、風に逆らって身を起こすと、吹き散らされて枝にからめとられた髪がむしられていく。そんな痛みに気をとられる余裕はない。守らなければ、と切迫した思いで見上げた視線の先で空気がよじれる。
「……泰麒!」
 吹き寄せた音が|身体《からだ》を|叩《たた》いた。ねじれてひずんだ大気がさらに|歪《ゆが》み、歪みが枝を|呑《の》みこむのが見えた。
「やめて……!」
 金の小さな実がひずみに呑みこまれる。|十月《とつき》さき、汕子が|己《おのれ》の手でもぐまでは、けっして枝を離れるはずのない実が、枝からねじ切られていくのが見えた。
「誰か!」
 枝に|掻《か》き切られて血だらけになった|腕《うで》が実を追う。指先と金の実の間の距離は絶望的なまでに遠かった。
「誰か、止めて──!」
 汕子の叫びは、全霊を託して伸ばされた指の先で断ち切られた。
 金の実はその姿を歪みの中に沈めて消えた。
 この世に生まれ、泰麒と呼んだ、そのほかに発した初めての声は悲鳴だった。|虚《むな》しいばかりの叫びだったのである。
 始まったときと同じく、唐突にそれは終わった。
 汕子は|呆然《ぼうぜん》と白い枝を見上げた。
 そこにはもう金の光は見えなかった。たったひとつあった果実は、消えうせていた。
「汕子……!」
 声が四方から響いて、多くの|女仙《にょせん》が|駆《か》けてくるのが見えた。まっさきに汕子のそばにたどりついたのは|玉葉《ぎょくよう》だった。
「ああ……汕子……」
 汕子は差し出された彼女のたおやかな手にすがりついた。
 最初に名を。次いで、悲鳴と叫びを。その次に汕子の|喉《のど》が発したのは号泣だった。
「なんということ」
 玉葉は|孵《かえ》ったばかりの|女怪《にょかい》を抱きしめる。無残に散った髪をなで、傷だらけになった|身体《からだ》をなでた。
「よりによって、|麒麟《きりん》が実ったときに」
 腕の中の女怪は絶叫している。ともすれば|十月《とつき》のほとんどを木の下ですごすほど、女怪の麒麟に対する思いは深い。それを目の前で失った痛みは、玉葉の想像に余った。
「大事はない」
 女怪の背を|叩《たた》いた。
「そのように泣くでない、汕子。……必ず泰麒は探し出してみしょう」
 つぶやきながら、|己《おのれ》に言い聞かせる。
「できるだけ|早《はよ》うに、そなたの手に泰麒を戻してやろうほどに」
「|玄君《げんくん》……」
 声をかけてきた|禎衛《ていえい》にうなずく。
「諸国に|朱雀《すざく》を飛ばし、至急に|蝕《しょく》の方角を調べさせよ」
「かしこまりまして」
「月の出までに、ぞえ。女仙を集めて門を開く用意をさせよ」
「はい。ただいま」
 女仙が方々に散っていく。玉葉は|虚《むな》しく視線を上げた。
 何度見わたしても、白い枝に金の果実は|見出《みいだ》せなかった。

 蝕は|黄海《こうかい》の西に起こって、東の方角へ駆け抜けていったとわかった。
 |不可思議《ふかしぎ》な力に守られた|五山《ござん》の、さらに守護のあつい|蓬廬宮《ほうろぐう》の花は一花も残さずに散った。|蝕《しょく》が通過した諸国からは|甚大《じんだい》な被害が報告されたが、蓬山の|女仙《にょせん》にとってはそれは心を動かされることではない。彼女たちにとって、重要なことは|麒麟《きりん》のことでしかありえないのだった。
 ──問題は、蝕の|歪《ゆが》みの中に|呑《の》みこまれた果実が、どこへ行ってしまったのかということだった。
 蝕はこの世と、この世ならざる世界をつなぐ。この世の外を|蓬莱《ほうらい》といい、|崑崙《こんろん》といった。一方は世界の果てに、もう一方は世界の影に位置すると伝えられる。
 その真偽はともかく、それは人には行くことものぞき見ることもできない異境である。蝕と、月の呪力を使って開く|呉剛《ごごう》の門だけがそのふたつの世界をつなぐことができた。
 世界は|虚海《きょかい》と呼ばれる海にとりまかれている。東へ抜けた蝕なら、|泰果《たいか》は虚海を渡って世界の果て──蓬莱に流れていったのだろう。
 人には渡れぬ世界だが、女仙は単なる人ではない。玉葉の指示のもと、多くの女仙が虚海に開いた門を越えて泰果を探しにいったが、泰果の|行方《ゆくえ》は|杳《よう》として知れなかった。
 ──麒麟は、失われてしまったのだ。

 その日から長く、蓬山の東、虚海の東をさまよう汕子の姿が目撃された。


 

上一页  [1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] 下一页  尾页


 

作品录入:贯通日本语    责任编辑:贯通日本语 

  • 上一篇作品:

  • 下一篇作品:
  •  
     
     
    网友评论:(只显示最新10条。评论内容只代表网友观点,与本站立场无关!)
     

    村上春树《骑士团长杀人事件》

    日本作家到底多有钱,看看村上

    日媒推荐七部日本轻小说入门作

    日本明治时代可以靠写作维生吗

    林少华:村上春树审视的主题依

    告诉你一个真实的芥川龙之介

    广告

    广告