向こうから,お医者(いしゃ)がやってきました。
そこへ店(みせ)の小僧(こぞう)が,かけてきてぶつかり,医者は,弾み(はずみ)でで転(ころ)んでしまいました。
「ああ,危ないではないか,これ。」
医者は立ち上がって,小僧の襟首(えりくび)をつかまえ,手をあげて叩(たた)こうとしますと,小僧が,
「足で蹴(け)るのは構(かま)いませんが,手でぶつのだけは,ご勘弁(かんべん)ください。」
と言います。
医者は,可笑(おか)しなことを言うものだと思って,
「はて,なぜ,そのようなことを言う?」
と聞くと,小僧,
「足で蹴られても,命(いのち)はなくなりませんが,お手にかかると,とても助(たす)からないと,もっぱらの評判(ひょうばん)でございますから。」