もう20数年前のこと。白タク(運営許可証ないのタクシー)をよく利用しました。
日本橋の商社前に、午後五時ごろになると、よく待っている白タクがいた。お互いに顔見知り。違反とわかっていても、料金で行ってくれるタクシーはなかなか拾えず、高い。東京駅へ乗合で行ってもらったり、新橋までのみに行ったりとても便利でした。
ある日、定員五人乗りで、新橋へでかけました。
昭和通りを新橋のガード下まで走らせ、そこで降りようとしましたが、ふと見ると警察官が立っていました。こっちはいいけど、運転手は困る。お金を出すにも停車時間がかかります。
「お客さん、すみません。もう少し先まで乗っててくれませんか。安くしますから。」
運転手は必死に願いしました。
そこから信号二つ先で降りようとすると、今度は公安委員が立っている。あのころは、白タクの取締りが厳しかったものです。
運転手は、ここでまた困った顔をしました。だが、目的の飲み屋は、もうだいぶ通りすぎているし、みんな「大丈夫、大丈夫よ」とドアをあけて降り始めました。いつも80円でくるところなので、私は、そっと下の方から百円玉を握らせました。すると運転手は、私を呼ぶのです。
「お客さん。」
ヤバイ場合だから、お釣りはチップにしとこうと思い、知らぬ顔して立ち走ろうとすると、小さな声で、
「これ一円玉ですよ。」