電話というものは、目に見えないものです。いずれテレビ電話が普及すると、困ることもあるでしょう。化粧や髪のセットもしてない朝のうちの電話。お風呂に入っているとき。でも、まだだいぶ先のようで安心安心。
私の会社は上野にあるのですが、もう五時少し前。会社へ戻ると、何かと退社まで時間がかかるし、丁度その日は、友人と飲む約束があるので、
「ああもしもし、課長ですか、今まだ船橋にいるんですが、五時には帰れませんので、特に急用がなければ、このまま失礼してよろしいでしょうか。」
上野のそれも会社に近い地下鉄の公衆電話から。ふまじめといえばふまじめ。ずうずうしいと言えばずうずうし。「さあ、自由になった」と受話器を置いて行こうとすると、隣の若い女性に肩をポンポンとたたかれました。
ふと見ると、今まで見たこともない女性だ。なかなかの美人で、受話器を持ったまま、私を呼び止めたのだから、ただ事ではありません。
「すみませんけど、この電話変わってください。」
「だって僕は、あなたを存じませんよ」
「いいんです。内の会社の人なんです。とにかく、ここがどこか説明してください。」
「ここで待ち合わせでもするんですか。わかりました。」と受話器を受け取り、
「もしもし、ここはですね、上野の地下道で、銀座線ののり口ですよ。どちらからいらっしゃるのですか。」
「やっぱり上野ですか。じゃあいいんです。手前どもの会社は船橋ですが、そこにいるうちの娘が、「上野だから帰れない。」と言うんです。あなたは、隣の電話で「いま船橋だ」とおっしゃるので、こんがらかってしまったのです。大変失礼しました。」
やっぱり上野ですか
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