春をあらわす日本の古い言葉に、「桜時」というのがある、昔から、桜の花に特別の愛着を持っている日本人ならではの言い方だが、その桜の花を心ゆくまでながめて春をめでようというのが日本の花見である
格式のたかいところでは、「観桜会」といって皇室や総理大臣が各界の著名人や各国の大使など数千人をまねいて行う盛大なものもあるが、一般に行われる花見は、家族や町内、職場の気の合った仲間どうしでたのしむ。もっと庶民的なものである庶民の花見につき物なのが宴会で、枝ぶりのよい桜の木下にござやビニール風呂敷を強いて陣取り、料理や酒やカラオケを持ち込んで飲めや歌えやおどれの大騒ぎとなる。東京の上野公園のような桜の名所となると、その宴席を確保するための陣取り合戦がまたたいへんで、各グループの先発隊がせんじつから乗り込み眺めのいい場所をめぐってこっちがさきだ」、「いや、こっちだ」と小競り合いを演じる狂騒ぶりである。
花見の歴史は古く平安時代の812年に宮中で行われた桜の花宴がその始まりろされている。豊臣秀吉が1598年に京都の醍醐寺で開いた醍醐の花見」はその豪華さで史上もっとも有名だが花見が庶民の行事となったのは江戸時代に入ったからのことで、葛飾北斎の富嶽三十六景」には花見にこうじる江戸町民の様子が鮮やかに描かれている。
桜の名所として有名なのは日本一の誉れ高い奈良県吉野山。俗に吉野千本桜」と呼ばれるたくさんの桜が山すそから頂上まで植えられ、春には満山花で埋まる。京都の嵐山や、世阿弥作の謡曲桜川」で知られるいぱらぎ県桜川なども多くの花見客でにぎわう。