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アメリカの入隊と大学教育

作者:未知  来源:本站原创   更新:2004-5-25 13:10:00  点击:  切换到繁體中文

 

19歳の女性陸軍兵士が救出され、出身のウエスト・バージニア州の様子や家族の様子も連日TVで報道された。白人人口が95%を占めるウェスト・バージニア州といえば、全米で5番目に貧困率が高い貧しい州だ。現在、全米人口の11.7%(約3,290万人)、18歳以下の子供の16.3%(1,170万人)が貧困に苦しんでいる(U.S. Census, Poverty in the United States:2001)。これらの貧困層の家庭は、自立すれば経済援助がなくなるという不安と「多少這い上がったところで生活はあまり変わらない」という諦めから、この生活から脱出することが難しい。

貧富の差が激しい米国社会で底辺層から中流層への階段を上るには、大学教育が一つの鍵となる。だから軍に入隊すれば学費支援(又は全額援助)があるプログラムは特に底辺層の生活を断ち切る意志を持つ若者にとっては、魅力的な選択肢なのだ。高校卒業していることと最低2年間の軍隊での勤務が条件だが、その間に戦争が起これば兵士として従軍するというリスクを負っても得られる大学教育の価値は大きい。実際、96年度に入隊した兵士の94.8%が教育支援プログラム(38 U.S.C.Chapter 30, Montgomery G. I. Bill)に参加している。イラク戦争に従軍している若い兵士の中でも、「国のためなら死んでもいい」といって志願した兵士よりも、経済的な理由から参加している兵士が多い。だから余計犠牲者がでると、重苦しい心境になる。

数年前、国際関係論(戦略論)を専攻していた学生時代に、米国最大の海兵隊実弾砲撃演習基地、29パーム基地へ体験入隊の研修があったので参加したことがある。クラウゼビッツの「戦争とは他の手段による政治の継続である」を叩き込まれる学生の課外授業というところだ。大学院を卒業すると国防総省や国務省等で実際に国の防衛・外交政策に関わる仕事に就く学生が多かったので、現場の様子を体験し理解するという目的で行われた。海兵隊側も「軍のことを理解してもらうためのPR活動」として積極的に受け入れている。あまりにも衝撃が強かったので今でもよく覚えているが、日中は30度近くから夜は氷点下に気温が下がる砂漠の真ん中で、朝から晩まで過酷な訓練に身を費やす人達がいるということだ。泥だらけになり疲労で倒れこむように眠りたくても、さそりが出るからと脅された氷点下の野営では一睡もできない。50~60人をまとめる小隊長といっても25、26歳という若さ。隊員はそれこそ18、19歳なのではないかと思うくらい無邪気な若者達だ。その隊員たちになぜ軍隊に入ったの? と聞くと「衣食住の面倒を見てもらえるから」「やっぱり大学に行くためさ」や「外国に行けるし、外の世界を見てみたかったから」「誰も一生この仕事をしようと思っているわけじゃない。最新鋭の武器や計器が扱えるようになれば次の仕事も見つかるから」といった現実的な答えが返ってきた。

一方、軍隊にはすべての物資が必要以上に豊富にあることにびっくりさせられる。例えば、明らかに私の太ももより太い砲弾砲も私たちのような外部の研修生に気前よく一発づつ撃たせてくれる上、M16ライフルの射撃用実弾の入った箱もかごからあふれるほど積んである。射撃シミュレーションセンターや最新鋭のシステム等、研究費
も相当つぎ込まれているだろうと想像させるものばかりだ。これは、それでも近年減少傾向にあった米国の軍事予算を見てみるとよく分かる。GDP比3.4%(2002年度)だった軍事予算が今年度は増えて、対テロ戦争の100億ドルを別にしても2003年度は3,390億ドル(約40兆円)だ。GDP比1%の防衛予算の日本(4兆9,560億円:02年度)と比べても、相当開きがある。こんな国と戦うこと自体無謀すぎると思わせるのに十分だろう。

軍の機動力・作戦遂行能力面でもこの軍事費の違いが明白だ。今回も英米軍という形だが、本音をいえば、作戦遂行能力のギャップや言葉上の問題で指令系統に危険が生じるため、実際に外国の軍隊と一緒に合同軍として作戦を遂行するのは米軍にとって危険が多く、足手まといだという意識がある。平時に同盟国との合同演習も行われて
いるが、総合力としての米軍の能力は他の国のそれを大きく引き離している。

大学に行きたいために従軍して捕虜になった19歳の娘と、私立の大学院を卒業し国務省等で働くエリートの差はスタートラインからついているのだが、他の社会に比べて階層間を移動するチャンスがまだ残されていることが、米国社会の魅力ともいえるだろう。100人以上も犠牲者が出ている中で、「彼女が救出されたのは本当にラッ
キー。軍の士気昂揚という意図も感じられるが、普通なら助からない」と同僚。ちなみにウェスト・バージニア州知事が救出された女性の学費を州が支払うと申し出た。
貧困対策や公的医療保険、バイオテロ対策研究費等(Health and Human Service)に対する予算配分は防衛費より多い4,594億ドル(2003年度)だが、減少傾向にあった貧困率は2000年から再度上昇している。同僚の「彼女はマクドナルドで働いていれば一生ウェスト・バージニアを出ることはなかっただろう。軍隊での経験は彼女のキャリアにとってはプラスだったのではないか」という言葉はシビアなようで現実を表している。

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作者:村上博美
経済戦略研究所 上級研究員上智大学理工学部卒。米国でMBA取得後、仏国商科大学院交換留学を経て、米国ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院(SAIS)にて国際経済及び戦略論
で修士号取得。在学中、戦略国際問題研究所にて元大統領補佐官ズビグニュー・ブレジンスキー氏の助手を勤める。1999年9月より、ワシントンDCにある経済戦略研究所にて日本政治・経済・通商政策について研究。政策海外ネットワーク代表。


 

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