中学二年生のとき、生まれ育った大阪から福井県へ移り住んだ。それまでの私にとって、冬をひとことで言う語は「寒い」であり、春をひとことで言う語は「暖かい」だった。
もちろん、福井の冬も寒いし、春は暖かい。が、それをひとことで表現するとなると、冬は「暗い」であり、春は「明るい」なのだ。
秋から冬にかけては、晴れ間がほとんどない。「弁当忘れても傘忘れるな」ということわざがあるぐらい、よく雨が降る。冬はそれが雪になる。住んで初めて知る、雪のおそろしさ。ときにそれは家をつぶし、人の命を奪うことさえある。雪かきという非生産的な重労働。しめっぽい部屋。極端に少ない日射量と高い湿度は、女性の肌を美しくはしたけれど、人々の口数を少なくさせたように思われた。
だから、春の訪れを、気温にではなく光にまず感じる。道ばたに残っている雪のかたまりが、陽のひかりにキラキラしはじめると、ああ春だなあ、と思う。うれしい、というようりは、ほっとしたような気持ちである。冬をぬけたという感じ。
久しぶりの青空に、それっとばかり布団を干したくなるが、これは我慢しなくてはならない。屋根の雪がとけて、ポタポタ、ポタポタ、しずくになって落ちてくるのだ。引っ越してきて初めての春、家じゅうの布団を干して、母は大失敗をした。よそから来た人はたいていやってしまうらしい。屋根の雪の心配がなくなった時、福井はすっかり春になる。