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狡兔死して良狗烹らる

作者:未知  来源:日本ネット   更新:2004-11-15 20:28:00  点击:  切换到繁體中文

 

 楚の覇王・項羽がほろびて、天下は漢に帰した。漢王・劉邦が帝位に
ついて、漢の高祖となった。その翌年(漢高祖の六年)のことである。詔
がおもおもしく諸侯にくだされた。
 
 「朕は、これより雲夢湖(湖北省陸県)に游幸する。
  汝ら、随行すべく楚の陳(河南省淮陽県付近)に集合せよ。」
 
 これには理由がある。当時、韓信が楚王に封ぜられていたが、その韓
信のもとに、項羽の勇将であった鍾離バツがいた。かつての戦闘で、鍾
離バツのためにしばしば苦しめられた高祖は、彼を憎むことはなはだし
く、その逮捕を韓信に命じたのだが、以前から鍾離バツと親しかった韓
信はその命をきかず、かえって彼をかくまっていたのだ。このことを知
って、「韓信には謀叛の意がある」と上書したものがあったので、高祖
は陳平の策略にしたがって、游幸を口実にして諸侯の軍を招集したので
ある。
 
 事態がこうなると、韓信は本気で叛旗をひるがえそうかと考えてみた
が、「自分には何も罪状がない」とまた思いかえして、進んで拝謁しよ
うとした。しかし、ノコノコ出ていくと、捕縛されそうで、どうも不安
である。そうしたある日、こざかしい家臣が韓信にささやいた。
 
 「鍾離バツの首をもって拝謁なさいましたら、
  陛下もお喜びになられ、
  わが君におかれましても憂慮すべき事態がなくなりましょう。」
 
 もっともだと思って、韓信はその由を鍾離バツに告げた。すると鍾離
バツは、
 
 「高祖が楚を襲撃しないのは、君のところに僕がいるからだ。
  それなのに君が僕を殺して高祖に媚態を示すようなことをすれば、
  君もたちまちやられるぜ。
  君としたことが情けないことを考えたものだ。
  僕は君を見そこなったよ。
  よし、僕は死んでやるさ。
  君なんか、とても、人の長たる器じゃないよ。」
 
 と罵って、みずから首を刎ねてしまった。その首をもって、韓信は陳
におもむいたのだが、はたして謀反人として捕縛されてしまった。韓信
は口惜しがった。
 
 「ああ、狡兔死して良狗烹られ、高鳥尽きて良弓蔵れ、
  敵国敗れて謀臣ほろぶ、といわれるが、まったくその通りだ。
  天下が平定されて、おそるべき敵が跡をたったいま、
  狡い兔が狩り尽されると忠実な猟犬が主人に烹て食われるように、
  さんざん漢に尽くした自分が、こんどは高祖に斃されるんだ。」
 
 ところで、高祖は韓信を殺さなかった。しかし、楚王から淮陰侯に左
遷したので、これ以降、韓信は淮陰侯とよばれるのである。
 
 
 この話は、「史記」の「淮陰侯列伝」にある。「うさぎ」は「兔」が
正しい。「兎」は俗字である。同一の列伝のなかに、斉のカイ通が韓信
を説いた言葉として、越王・句践にたいする忠臣の范蠡を例にあげて、
「野獣すでに尽きて猟狗烹らる」とあるが、同義の異語である。
 
 「呉越春秋」には、「狡兔」を「郊兔」と記してある。「狡兔」とい
う語は、よく使用される語で、「戦国策」にも東郭逡を「海内の狡兔」
と記している。
 
 


 

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